
この目黒川も桜で燃える。
はやいなあ。
もうすぐ四月。
☆
そういえば
このまえマクドナルドの向かいにある居酒屋で
晩飯を食べた。
僕がいる店とマクドナルドの距離はたかだか2,3メートルだった。
窓ガラス越しに
お互いの店内の様子はほとんど丸見え。
マクドナルドの客席はほぼ満員で、
カップルや女の子同士が多かった。
コーヒー、ポテト、ハンバーガー。
店内の笑い声と油のにおいまで伝わってきそうだった。
そんななか、男二人が真顔で向かい合ってる。
どちらも三十代半ば。
テーブルの上には漫画のネーム。
それを編集者とおぼしき男が入念に読み込んでた。
「作家と編集者の打ち合わせ@向かいのマック」
少なくとも20枚近くあったはずで、
編集者が読みふけっているあいだ、
作家とおぼしき男は口元に手をあてたまま微動だにせず
自分の作品が読まれるさまを見てた。
談笑する他の客にまぎれてはいるものの
明らかにそのテーブルだけ時空がよじれているような異様な空気。
ようやく編集者が最後の一枚をめくり
読み終わった原稿をトントンとテーブルでそろえた。
いつだって自分の作品をはじめて人に読まれるときは緊張する。
読み終わった後の編集者の最初のひとことは
その作家の一日を決定してしまう。
というわけで、
気がつけば窓ガラスの向こうの
見知らぬ漫画家さんと一緒に
息をのんで編集者の反応を見守ってしまった。
編集者は原稿をたたんで、
しばらく目を閉じたまま、開かなかった。
そして沈黙。
(ああ、言葉を選んでる、選んでるよこの人)
自分にも身に覚えがある。
それはほとんど永遠にも感じるような間。
でも、選ばれた編集者の言葉なんて作家は信用しない。
ようやく口を開き、
淡々と感想を述べはじめた編集者に
漫画家はしずかに微笑んでた。
けれど、その目はけっして笑ってなかった。
どちらの気持ちもよくわかる。
二人にとって
もっとも良い結果には(少なくとも今回は)いたらなかった。
店をはさんで異世界にアクセスしていた僕までげんなりして、
というか、
僕自身がその原稿をかいたような気がしてきて
「すいません!」
と思わず手を上げて
ヒレ酒を注文してしまった。
あぁ、見知らぬ漫画家さんにも一杯おごってあげたい。
大丈夫、
次は今よりも先に進む、よりよいネームがかけるはず。
もう春だし。
もうすぐ桜も咲くし。
そしたらきっと世界も変わる。
(けっきょく飲みすぎました)