ブータン国王歓迎レセプションに、出席。

いま
ブータン王国のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王が
国賓として来日されている。
昨日、その歓迎レセプションがホテル・ニューオータニで行われ、
その式典に僕も出席してきた。
その場で、ワンチュク国王とお話しする機会があった。
「ティンプーで行われた陛下の戴冠式にも伺わせていただきました」
と挨拶をすると
「またこの場で再会できて嬉しいです。ありがとうございます」
と、あの人なつっこい笑顔がそこに。
僕がブータンで撮影してきた写真の展示会を開くむねを伝えると
その成功を祈ってくれた。
彼の手は大きくて、その人柄のように温かかった。
☆
僕がはじめてブータンを訪れたのは三年前。
トレッキングを含めたその旅の旅程は2週間にほどだったけれど
その旅のメインは到着翌日にあった
現ワンチュク国王が即位する戴冠式式典への参加だった。


式典にはブータンの国中から
首都ティンプーへ
国民が新国王誕生の祝いに駆けつけていた。
文字通り、国を挙げてのお祭りだった。
出店が所狭しとならび、
街中に国王の写真が掲げられていた。
人々は新国王の缶バッチを
胸につけて、
国家の安泰と、王家の繁栄の喜びをわかちあっていた。
鮮やかな色の糸で織り上げられたブータンの民族衣装は、
ただでさえ華やかな服装だ。
晴れ着となれば、その豪華さはなおさら。
国立スタジアムの前の大通りの人混みには
まるで万華鏡のなかを歩いているような錯覚を覚えた。
その日。
雲ひとつない、晴天だった。
「ワア!」
と歓声が上がり、周囲の人たちがみな空を見あげた。
僕も彼らの視線の先を追う。
そこには
歓喜そのものがつめこまれたようなカラフルな風船たちが
標高2000mの街の
真っ青な空に、舞いあがっていた。


式典は早朝から行われていた。
当時28歳のワンチュク国王は、
信じられないことに、
丸一日、長蛇の列を成して新国王との謁見を求める国民に
ひとりひとり握手をしていた。
一国の王が、国民ひとりひとりと。朝から晩まで、丸一日。
「信じられない」
たしかに僕はそう呟いたと思う。
そのとき僕は想像もつかなかった。
その列を成していた人たちが、
ブータン王国の全国から、
何週間も「歩いて」首都まで旅してきたことを。
その夜、僕のガイドは教えてくれた。
全国から集まった国民たちは
起伏の激しい山脈を越え、
夜は零度を下回る過酷な旅路をへて、
新国王に、お祝いの言葉を伝えるためだけに首都ティンプーへやってきた。
その列には僕の祖母のような年齢の老女さえいた。
そこには泣いている人がいた。
感激してひと言も話せない人がいた。
28歳にして一国を背負った青年は
そのひとりひとりに言葉をかけ
時間を惜しまず
笑顔で手を握り、ときには肩を叩いていた。
☆
いま、僕らの国が国賓として迎えている
若く美しい国王は、
そういう国の、そのような青年だった。
ワンチュク国王は今日、
ブータンへ手紙を書いてくれた震災被災地の小学校を訪れるという。
☆
レセプションで国王のスピーチがあった。
壇上の彼と、彼の通訳と、
そして先月王妃となったばかりの彼の美しい妻がいた。
スピーチで国王は、
日本国をあげての歓迎への感謝と、
東日本大震災への心配りと、
これからも変わらない日本への友情を述べた。
「できるのなら、
この場にいる全員と抱き合って
私たちの感謝と友情を伝えたいのです」
という彼に、出席者はみな拍手を送った。
そして
彼は口元にかすかな微笑みを浮かべたあと
僕らと同じ黒い瞳をいたずらっぽく輝かせた。
「でも、それがかなわないので、
かわりにこの場で、
結婚したばかりの私の妻を、抱きしめさせてください」
と白い歯を見せて笑った。場内は喝采だった。
国王が王妃に寄り添って、彼女の細いからだを抱いた。
まだ21歳の美しい王妃は
国王の逞しい肩に顔を預けてから、恥ずかしげ微笑んだ。
☆
ブータンの写真展に際して、
ブータンを舞台にした書き下ろしの短編を書いていた。
のだけど。
昨日国王とお会いして、新しく書き直そうと思った。
なぜそう思ったのかは自分でもよくわからない。
けれど、昨日までより今日の方が、いい物語を描けそうな気がした。